S:彷徨の神官 イシュタム
遺跡を護り続けているのは、実はヴィースたちだけではないらしい。生前にロンカの高等神官だったという「イシュタム」は、篤い信仰と皇帝への忠誠心で知られ、古代の史書にも名が残る。しかし篤信も、度を過ぎれば恐ろしいものだな。
彼女はその敬虔さゆえに、自らの身を儀式の炎に焚べ、死後も神殿を護り続けられるよう、永遠の契りを結んだそうだ。
そうしてイシュタムは数千の年月を越え、朽ちた魂を引きずりながら、今も遺跡に居着いている。遺跡を荒らし回る者が現れれば、彼女の神杖が振るわれるだろう。
~ナッツクランの手配書より
https://gyazo.com/5cefb9c86610a5172acc58bedb240112
抽選条件:「クラックド・ロンカドール」「クラックド・ロン
カソーン」「クラックド・ロンカヴェッセル」を各100体倒す。
ショートショートエオルゼア冒険譚
人は私の献身を敬虔さゆえの事だと思っているようだ。まぁ、私としてもそのように思われていた方が何かと都合がいい。
私の生まれた家は代々ロンカの神官の家系で、物心ついた頃から神官になるべく英才教育を施されてきた。私が選んだわけじゃない。私が望んだわけじゃない。ただ環境がそうであったため、私の人生は僅かな脇道すらない一本道であった。それが嫌で嫌で何度も家から逃げだそうとしたが、その度捕まって激しい折檻を受けた。建前上、禁欲を志とする職業だけに、色恋は当然別世界の話で、だからと言ってそれを謳歌する同年代の者達を羨ましいとも思わなかった。それは欲にまみれた上級神官たちの情事を身近に目にしたり、耳にしたり、実際に我が身に振りかかったりしたせいもあっただろう。私にとってそれらは悍ましく、汚らしいものと認識していた。
その状況が一変したのは私の体が少女から女性へと変化し始めた頃見たある夢がきっかけだった。その夢で私はロンカの神々と出会い、恋をして、そして結ばれた。天にも昇る心地であった。鬱屈した性を見せつけられた少女時代の反動だったのか、それとも本当にロンカの神々の寵愛を受けたのか、数日間毎夜見続けたその溶けてしまうような夢に私は憑りつかれた。嫌々だった神官への学びや修行に生まれ変わったように取り組んだ。少しでもあの方たちに近づけるよう、また寵愛を受けられるよう、私はそれこそ憑りつかれた様に励んだ。そして家系的にも遺伝的にも恵まれ、ことのほか素質に恵まれていた私は、あれよあれよという間にステップアップして、気付けば高等神官という地位に立っていた。そしてその頃になってもロンカの神々への恋心や夢が忘れられず、ただひたすら神々に恋い焦がれていた。
そんな私がどうしても気に入らなかったのは、我々神官とともに神殿や遺跡を守護する契りを神々と交わしたと宣う森に暮らすヴィースたちの存在であった。彼女らは人族の何倍も美しい体を持ち、顔立ちを持ち、そして力を持っていた。それだけで妬ましかった。それが私の心から愛する神々と契りを交わしているという。同じ条件で敵うはずがない。私は彼女らの事を考えるだけで猛烈な嫉妬で自我を保つことが困難な程妬ましかった。そして何年も考え続けた。どうすれば彼女らより神々に近づけるのか、どうすれば私が神々の寵愛を独占できるのか、どうすればまたあの夢のように神々の愛に溺れる事が出来るのか。そうして私は決断した。
私は我が身を儀式の炎に焚べ、神々と永遠の契りを交わすと。そうすることで私は肉体が滅んだ後も永遠に神殿の守護者として神々の傍に居られる。そう、彼女たちよりも永く、彼女たちよりも近く…。
円形になった神殿の真ん中に据えられた祭壇、天井の高い神殿の中ほどまで勢いよく立ち上がる炎。祭壇を遠巻きに囲み神官たちは一心不乱に祈っていた。祭壇へと続く赤い絨毯の上を篤信で知られる高等神官イシュタムが一糸まとわぬ姿で歩いて行く。まだ距離があるというのに祭壇の炎の熱が肌を焼くように熱い。神官たちは息をのんで見守った。いくら信仰心が高いとはいえ自らの身を自ら望んで差し出せるものなのだろうか?
だが、彼女の眼差しに迷いや恐れはなかった。寧ろ恍惚とした表情で微笑みさえ浮かべ、よどみなく祭壇の炎へと近づいて行った。そして一瞬立ち止まり、神々との永遠の契約の祈りをささげると、炎の中へと身を投じた。身を焼かれながら彼女は声を上げたが、それは苦痛の悲鳴とは違う声であった。